母の今年 その2―夏風邪と認知症② ― 2019/12/29 20:31
(前からの続きです)
大きな病気はないということで安心はしましたが、歩くのが不自由なことは変わらず、
夜のトイレに介助が必要だったので、母が起きたらすぐ目が覚めるように隣室に布団を敷いて寝ました。
幸い、杖をやめて歩行器にしたところ、安定感があるせいか歩幅も少し戻って一人で移動できるようになり、夜の介助からは一週間ほどで解放されました。
そのころには風邪も治り、精神的にも落ち着いて、それからは認知力もどんどん回復してきています。
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でも、今回はそれだけ身体が弱りましたので、体調が悪い時期には、かなりショックなことがありました。
風邪が治ったと思ってはぶりかえす、というのを繰り返していた、8月なかばのことです。
ある日。いつものようにデイサービスから送迎車で帰ってきた母が、「あら、車が行ってしまったわ!」と慌てて、
妙なことをいろいろ言うのでよく聞くと、私をデイサービスの職員だと思っていたのでした。
送迎の車に置いてきぼりにされたと、心配してくれていたようです。
そうではないと説明して、ほっとしたのもつかの間。
夜、お風呂へ入り、部屋へ戻って寝る準備をしていると、
「どうして昼間からお風呂へ入るの? 私はそんなに汚れていたの?」と訊くので、
「もう夜よ。寝る前にはいつもお風呂に入るでしょう」
というと、
「もう寝る時間?それじゃあ私、家に帰らなくちゃ」
というのです。
「ここは家だけど?」というと、
「だって、ここは施設でしょう? 先生のあなたがここにいるんだから」と。
私が、自分は母の娘だというと、母は
「大変なことが起こった」と頭を抱えてしまいました。
「眠いからぼんやりしているんでしょう。ぐっすり眠って朝目が覚めたらすっきりするわよ」というと、
「こんな大変な時に、眠っている場合じゃない」
「こんど目が覚めたらきっと棺桶の中よ」
と、頑張って眠ろうとしません。
おそらく眠るのが怖かったのでしょう。
仕方がないので黙ってそばにいましたが、だんだん座ったままウトウトし始めて、促すと、
「しんどいから、ちょっとゴロンとなろう」
といってベッドに入り、そのまま眠りました。
翌朝は普通に戻っていたのですが、風邪がぶり返したようだったので、朝食後、ベッドに横になって休んでいました。お昼になり、昼食を食べようと部屋へ呼びに行くと、
「私はいったい、何に巻きこまれているの?どうしてこんな変なことが起こっているの?」と言いだしました。
何のことかわからず、「風邪でだるいんでしょう。お昼ができたから、手を洗って食べに来て」というと、
いつものように食卓へやってはきましたが、珍しく食事中も難しい顔をしています。お昼を食べ終わるとまた、
「見慣れた顔だから安心はしているけれど、あなたはここの先生でしょう?みんなで私を担いでるのね。本当のことを言って!」と言いだしました。
「本当のことしか言ってません。私はあなたの娘で、ここは家族で住んでいる家です!」というなり、
私はいたたまれずに二階へ上がってしまいました。
あとは夫が取りなしてくれたようで、それきりおかしなことは言わなくなりましたが、その後も言葉遣いなどでときどき、「あ、いまはもしかしたら職員と思っているかも…」ということはあります。
初めは、いろいろ考えました。
毎日一緒にいるのになぜ…?とか、
私の態度によそよそしいところがあるせいだろうか?
とか。
でもあまりそういうふうには考えない方がよさそうです。
そこにいるのが母にとって娘であろうと職員であろうと、私のすることに違いはありません。
遠くの親戚より近くの他人と言いますが、傍にいるのは、母の言葉に傷ついてイライラしている娘より、
落ち着いているやさしい職員のほうが、
母にとっても居心地がいいでしょう。
娘とわかっても分からなくても、頼りになるやさしい存在でいられればいいのだ…と思いました。
母の思いに寄り添って、自分もできるだけ無理をせずに、いつも機嫌よくしていること。
それが、私の課題…
そう考えれば、以前と何も変わらないのかもしれません。
・・・と、ここまで書いたのは、実は10月ごろのことでした。(アップせずに放置してしまいました)
その頃も、
時々は腹を立てつつもおおむね機嫌よくやっていることに変わりはありませんでした。
でもそこには努力が存在し、
つまりはなにがしかの無理がありました。
あれから2か月。
いまは、腹を立てる回数が激減し、
優しく接することにほとんど何の無理もなくなって、
母と暮らす日々の幸せを、
感じることができるようになりました。
これは私にとって、とても大きな変化でした。
次回は、ここに至るまでの話、助けになったものやことについて書こうと思います。
いろいろあると思うので、何回かに分けることになるかもしれません。

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